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黒い アイツ ・・・    その2

その夜はやけに寝苦しく、梅雨時の雨が

霧のように降り続いていた。

 

 

窓を開けても風はなく、嫌な湿気だけが入ってくるような気がして

一度開けた窓に再び鍵を掛けていた。

 

 

『暑い・・・』

 

 

のどの渇きを覚え寝苦しさに耐えかねた私は、

階段を降りようと寝室のドアを開けた。

 

 

下へと続く階段はあまりに暗く、

いつものように電気のスイッチに手を伸ばしていた。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

妻は二人目を出産し、産後を過ごすため子供と共に実家に帰っていた。

 

 

 

 

 

私は一人だった。

 

 

油断していた。

 

 

安心しきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

去年の夏、念願とまではいかないものの、欲しかったマイホームを新築し、

 

二人目も生まれ、平々凡々な中にも充実した日々を送っていた私は、

 

人並みなしあわせを手に入れたつもりでいたのかもしれない。

 

 

 

まだ1年

 

たった1年しか経ってないのだ

 

 

それはまだ

あまりに早すぎたのだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暑く、寝苦しさに耐えかねた私は

喉の渇きを潤すため寝室を出た。

 

 

 

冷蔵庫にはビールが冷えていた。

 

お義母さんからの頂きもので、

出産前はいつ陣痛が来るかという思いもあり、

毎夜なかなか飲めずにいたのだ。

 

 

 

 

寝酒にはちょうどいいか

 

 

そう思うと炭酸の刺激がたまらなく欲しくなり、

電気を付けるのも煩わしく、下へ降りる階段を急いだ。

 

 

 

とはいえ、家の中でもリビングへ続く階段はあまりに暗く、

私はいつものように電気のスイッチに手を伸ばしていた。

 

 

当然、勝手知ったる我が家だが、暗く手探りで進んでいた

空間に、電気の明かりが灯った。

 

 

 

 

 

 

まだたった1年なんだ

 

 

安心しきっていたのだ

 

 

 

認めたくなかったのだ

 

 

 

 

 

 

最初、小さく感じた違和感は、次第に強烈な自己主張を始めた。

 

 

 

 

それは塊だった。

 

 

明かりの灯ったリビングで、

ふと目に映った蠢く小さな黒い塊だった。

 

 

 

 

刹那、私の時間は止まった。

 

 

 

 

1時間か

 

1分か

 

それはたったの1秒だったのかもしれない。

 

 

永遠にも感じた時間が過ぎ去ったあと、

 

 

私の中に残ったのは激しい後悔と底なしの憎悪だった。

 

 

 

 

 

引っ越し当初は完璧だった。

 

 

コ○バットを各所に抜かりなく配置し、

寄り付かなくなるスプレーを至る所に撒いた。

 

 

 

新築という安心感があったのだ

 

 

我が家はという油断があったのだ

 

 

 

 

 

 

その後のことはあまり記憶にない。

 

 

 

冷静さを取り戻した私が見たものは、

 

変わり果てた姿で

ティッシュに包まれた [元黒い塊] と

 

 

丸めた新聞紙を握りしめて立ち尽くす自分自身だった。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掲載日:2014年07月09日

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